誕生日のお祝い

ようこそ! サヴィナック、わたしの部屋へ。
この本のタイトル、『レイモン・サヴィニャック フランスポスターデザインの巨匠』ですが、
はじめに「サヴィナック」とおぼえてしまったので、
このほうがなじみがいいのだ。「ニャック」が本来の
発音に近いのかもしれないけど、まあ、許してほしい。


あなたの名前を、このぽんこつ頭にインプットしたのは、
恥ずかしながらごく最近だ。
2年前にひらかれた「本屋さんの仕事」という講座の中で、
あなたの名前を聞いた。その直後に偶然立ち寄ったギャラリーで、
あなたのポスターが展示されているのを見て、やあ、これは
こないだ聞いたあのひとだ、と気がついた。


偶然、という言葉のもつ未知の高揚感と、実際に目にした
あなたのイラストに魅了されて、わたしはその日、何枚か
ポストカードを購入したのだけど、冬の引越しのごたごたで
すべてどこかへ消えてしまった。青い紙袋に入れて本に
はさんだところまでは覚えているのにな。


でも、それからあちこちで、あなたのイラストを目にすることに
気がついた。なくしたポストカードもすぐに、別のところで売られて
いるのを見つけた。こちらにサヴィナック、あちらにサヴィナック、
あなたの名前は邪気のないいたずらのように軽やかだ。
そしてあなたのイラストも、目に見える世界を軽々と飛び越えて
あざやかだ。


そう、ちょうどシルトホルンのポスターのように。


そんなあなたの、日本でははじめて出版されたという作品集を
真夜中、誕生日のお祝いとしていただいた。
こうして眺めていると、色使いのうつくしさはもちろんのこと、
あなたの描く線はなんて魅力的なんだろう。迷いがなくて、
わかりやすくて、まっすぐに飛びこんでくる、見る者の視界に。
そして、まったく写実的ではないのに、なんだか動き出しそうな
気がするんだ。描かれている人や、動物や、車が、今にもさ。
生きている線なんだな。


いつまでもいつまでも眺められそうだ。


眺めているうちになにかがインスパイアされるかもしれない。
そしたらこの本を贈ってくれたひとにお礼の葉書を描こう。
そう、サヴィナック、あなたはおくりものとしてここに来たんだよ。
ちょっと写真がピンボケで申し訳ないけど、わたしの本棚の
一等地へあなたを招待します。


ありがとう。