あけましてしめくり

キロへ


あなたから「おおみそか」を贈られて、それまでのんびりと
蕎麦がわりの細打ちうどんなどすすっていたわたしは、
鏡を見て後ろ髪が思いのほかはねていることにおどろき、
出先で手袋をなくして青ざめ、やっと実家にたどりつけば
部屋はこおるほど寒く、わたわたとちっとも落ち着かないまま
年明けをむかえまして、まさに師走をしめくくる小騒ぎの
「おおみそか」を満喫したのでありました。


さて、明けまして本日は「元旦」ですけども、
やっぱりわたしは「おおみそか」のほうが好きだな。
「元旦」は学園祭のあとの片付け、とか、阪神優勝
次の日の道頓堀(行ったことないけど)、とか、
なんだかくたびれちゃったおじさんのにおいがするよ。


だからあなたに「元旦」を贈るのはやめておきます。
なにしろ旅行の支度で疲れちゃって、わたしの部屋に
来る予定をキャンセルしちゃったくらいですからね。


いちにちいちにちをくだらなく、おろかに、要領わるく、
それでもだいじに、いっしょうけんめいに、おもしろおかしく
過ごしていこう、キロ。


そういう時間がふくふくと流れているこの本を贈ります。


メートルより

谷川俊太郎「詩めぐり」

谷川俊太郎「詩めぐり」


一月一日


くわしい地図書いてください
その家へは行ったことがないのだから
あ ちょっと待って
靴が脱げてしまった
と 若き日のニーチェは言った


谷川俊太郎「詩めぐり」』より