絶対に開けちゃだめだよ
しかしまだぼくは年端もいかず、それにひねたところもあって、彼の親切さが見抜けなかった。彼は祖母やリディアやぼくに紹介されもしないうちから、まっすぐにぼくを見て言った。「きみがジョニーだね。ボストン=メイン線に乗っていた一時間半のあいだに、きみのことは誰よりもたくさん聞いた。それで大切な包みをきみに預けても大丈夫だってわかるんだ」それは茶褐色のショッピング・バッグで、なかにもう一つの茶褐色の紙袋が収まっていた。そらきた、とぼくは思った。ふくらますとラクダになって、水に浮かんでシューシュー空気を吐きだすやつだ。ところがダン・ニーダムは言った。「きみにあげるんじゃない。君の年頃の子向きじゃないんだけど、きみに預けるから、踏みつけられないところにおいといてくれるね。ペットを飼ってるんだったら、ペットの寄りつかないところがいい。絶対にペットを近づけないこと。それから絶対に開けちゃだめだよ。もし動いたら教えてくれればいい」
こどものころもらったおくりもののことを覚えていますか。
わたしは…あまり覚えていない。
覚えているものといったら本ばかり。
本はもらったあとに「読む」という自発的な作業があるから、
たぶん忘れないのだろう。
誕生日、おめでとう!
入学、おめでとう!
進級、おめでとう!
卒業、おめでとう!
メリークリスマス!
ハッピ、ニューイヤー!
こどものわたしはいろんなものをもらいすぎたんじゃないか、
という気が今、している。
おくりものがあたりまえになったら、それはもうおくりものではない。
あたりまえ、というほどにはもらっていなかったと思うけど、
もらったものをひとつも思い出せない自分に、ちょっと愕然とした。
こどもへのおくりものを考えるのはむずかしい。
それは別次元の想像力を要求される。
こどもがよろこぶもの=いいおくりもの、とは言いきれない。
ちょっと先の未来へ気持ちをめぐらせて、おとなになった彼/彼女が
手にとったときに、これはいい、と思えるものや、思い出したとき、
そばにいるだれかにそのことを話したくなるような、
そんなおくりものがいい。
まちがっても、「ふくらますとラクダになって、水に浮かんで
シューシュー空気を吐きだすやつ」なんてのであってはならない。
ところで、このあとジョニーはもちろん、この包みを
「ほんの少しだけ」開けてしまう。その中身を見て
ジョニーは悲鳴をあげ、電話台をひっくり返し、
電話のコードを脚に絡ませたまま居間へ突進して、
また悲鳴をあげる。
それを見たダン・ニーダムは、ジョニーの母に向かって
愉快そうに言う。
「言ったとおりだろう、あの子は袋を開けるって」
そのあと、ダンは袋の中身をジョニーにプレゼントし、
ジョニーはそれを、母の「ボーイフレンド」がくれた
プレゼントでははじめて、とっておくことにするのだ。
何年ものあいだ。
さて、ダンがおくったものとははたして何だったのか?
それはここではひみつ。知りたい方は、ジョン・アーヴィングの
驚くべき、めくるめく小説世界へ!やみつきになります。
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