おくりもののある景色
リリ子さま。高校時代の春名の手紙の冒頭は、いつもその呼びかけで始まっていた。 リリ子さま。昨日帰り道に、きれいな花が咲いていたの。それで、腕いっぱいにつんで、家に帰ってから大きなガラスの花瓶にさして、一夜明けたら、部屋じゅうがものすごくくさ…
再読はめったにしない。 どうしても既視感がまとわりつくし、特別な作品であれば なおのこと、はじめに読んだときの印象をだいじにしたい。 「となり町なんだから、今まで会ったことないほうが不思議だよな。」嵐は言った。「兄妹のようなものなのに。」 「…
「まだ大きすぎるな」と叔父さんは言った。「もっとちょうどいいのがあるよ」。叔父さんはベッドの下に手を入れて、今度はだいぶ小ぶりのケースを引っぱり出し、スナップをぱちんと開けた。ルビー色のビロードを下に敷いた、分解したクラリネットが現れた。…
プレゼント探しは難航した。祖母が電話で言ってきた。「ボーイフレンドを連れておいで。会いたいからね。でも、高くてむだなプレゼントをわざわざ買いに行くんじゃないよ。もう、あらかた欲しいものは持っているし、だいいち、たいがいの孫や子よりも趣味は…
それにしても、すべての日常から外れて、期待と不安に満ちた一日を、私はどのようにして失っていったのだろうか。誕生日がもたらす新鮮な軋みを、いつからのっぺりとした日々の波に返してしまったのだろうか。娘の様子を見ていて最初に思ったのは、そんな誕…
しかしまだぼくは年端もいかず、それにひねたところもあって、彼の親切さが見抜けなかった。彼は祖母やリディアやぼくに紹介されもしないうちから、まっすぐにぼくを見て言った。「きみがジョニーだね。ボストン=メイン線に乗っていた一時間半のあいだに、…
これはもう、おくりもの殿堂入りと言っていいくらいだと思う。 おくりものの景色として、わたしがまっさきに思い浮かべるのは この本の、このシーン。 かなり待ったような気がした。ぬれた足に風がじんじんしみた頃、部屋の明かりが突然ぱっとついて、おびえ…
ドレスを身につけたときのシナイちゃんの表情は忘れられない。 できあがるまで、彼は放っておいてくれていた。ずっと楽しみにしてたんだよ、と言った。 鏡を見ながら、信じられないというふうにドレスの上から体を押さえ、こちらを見、ふたたび鏡をのぞきこ…