コスモス

再読はめったにしない。
どうしても既視感がまとわりつくし、特別な作品であれば
なおのこと、はじめに読んだときの印象をだいじにしたい。


「となり町なんだから、今まで会ったことないほうが不思議だよな。」嵐は言った。「兄妹のようなものなのに。」
「うん、そうね。でも、すごい偶然だったわね。」
「うん、おまえが振り向かなかったら、絶対にわからなかった。」嵐はウインドウを指して言った。「花を買うのか? 買ってやろうか、記念に。」
 私は、花屋で彼にたくさんのコスモスを買ってもらった。あまり嬉しくて、
「これの花言葉は出会いなのよ。」
とでたらめを言った。



うたかた/サンクチュアリ (新潮文庫)』(吉本ばなな)より

再読です。
職業柄、あらゆる本に触れることが多く、たまたまページを
繰ったらとまらなくなってしまった。


この本を読んだのは、以前の日記で触れた『キッチン (角川文庫)』と
同じく、高校生のころだ。天邪鬼なので、話題になって
しばらくしてから読んだ。
吉本ばななの初期作品はほんとうにすばらしいと思う。
文体に無理がなくて、物語がていねいに流れていく。
しずかなのに、ときどき驚くほど鮮やかに仕草や景色が
見えて、わたしはそこに立ちつくす。
これの花言葉は出会いなのよとでたらめを言った、なんて、
女の子にとって、これ以上のうれしさの表現はないでしょう。


めったにしない再読を、吉本ばななの作品に限っては
けっこうしている気がする。
再読してびっくりすることが多い。
書かれていることが、初読のときよりぴったりくるのだ。
あのころはなにもわかっていなかった、なんて説教じみたことは
思いたくないけれど、強かったかもしれないなあ、とは思う。
知らないから、まあ強かったよな、と。


再読もたまにはいいものです。


年を経ておくるのも、おくられるのもどんどんうれしく
なる。おくりもののことを考えるとき、わたしは絶対に
ひとりではないからだ。そうして逆説的に、自分がひとりで
あることを知る。
知らないよりも知っていたほうが、おくりものは楽しいと思う。


うたかた/サンクチュアリ (新潮文庫)

うたかた/サンクチュアリ (新潮文庫)